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『The ショートフィルムズ』鑑賞記
 朝日放送の新社屋完成を記念して、7月中旬に、阪本順治・井筒和幸・大森一樹・李相日・崔洋一の5人の監督によるオムニバス映画『The ショートフィルムズ』が公開されました。以下に掲載するのは、映像文化専修3回生のIさんによる鑑賞記です。



 映画が始まる前のわくわくした感じは何ともいえないものです。会場に集まった人がこれから始まることに期待している。そういう場所に自分が居れたことが嬉しかったです。「子供」がテーマというショートフィルムたち。最初は「子供」で感動を誘う様な、ありがちな作品じゃないかと高を括っていた気持ちもありました。そんな気持ちは上映が始まって少しの間で裏切られるのですが。5作品が揃った、この『The ショートフィルムズ』。どの作品も、それぞれの個性が光っていてさまざまなアプローチがありました。監督の想い、役者の気迫…多くの要素が合わさって完成した作品たち。真剣な眼差しがどれもこれも、それぞれにステキでした。

 会場に時々笑いが沸き起こり、嬉しさや悲しさを抱き、感動の空気が重なり合う。その空間がとても心地よかったです。何かが大きく変わるわけではないかもしれないけれど、この作品たちをずっと忘れないでいたいです。『The ショートフィルムズ』との出会いに感謝です。

 阪本順治監督の『展望台』は死を決意したおじさん(佐藤浩市)と、親に見捨てられた少年(小林勇一郎)が夜の通天閣で一晩を一緒に過ごします。「なんでなん、なんでやねん」という瞬間が何度も訪れて、少し切ない場面もありました。作品中、ずっと同じ場所で話が進んでいくので少し舞台劇を思い浮かべる感覚でした。大人に教わる子供と子供に教わる大人、お互いが飾らないから寄り添えた暖かい作品でした。登場する、少年が良い味を出していました。

 井筒和幸監督の『TO THE FUTURE』はとある小学校が舞台。個性がバラバラな生徒たちがそれぞれに成長している様子が分かります。今、話題のモンスターペアレンツやモンスターティーチャー(光石研)が登場し、ドタバタ劇が繰り広げられます。子供は大人びた面を持ち、冷静。ワーワーわめく先生や親の方がよっぽど子供っぽく見えました。笑えないユーモアも入れるところが大胆で井筒監督らしさが出ていました。賑やかな作品でした。

 大森一樹監督の『イエスタデイワンスモア』は五作品の中では一番現実離れをしている作品だったように思います。子供(佐藤隆太)が母(高岡早紀)のために奮闘する『浦島太郎』を髣髴させるお伽噺です。このお話では玉手箱が登場して、ある少年が急に歳をとるシーンがあるのですが。現実には玉手箱はないし、急に歳をとることも若返ることもできません。だけど、お伽噺は大人の心も子供の心も動かせる力を持っています。子供は急に大人にはなれないし、大人はもう子供には戻れない。時間の大切さが伝わってきました。

 李相日監督の『タガタメ』は5つの作品の中で一番シリアスな作品でした。医師にあと三ヶ月の命だと告げられた初老の男(藤竜也)には、知的障害を持った息子(川屋せっちん)が一人いるという設定です。息子のために生きたいと願った男の切ないお話でした。ハッピーエンドと呼んでいいのか、そうとは言えないのか、難しい結末でした。シリアスな物語の中に少しユーモラスな死神(宮藤官九郎)を加えることで、作品にメリハリが見られました。男の死は刻一刻と迫り、観ている方もどうにかならないかと思い胸が苦しくなります。全く同じ状況でなくとも、現実にも解決できない問題がたくさん溢れていることに気づかせてくれました。

 崔洋一監督の『ダイコン~ダイニングテーブルのコンテンポラリー』は日常的で愛くるしい作品でした。ワイドショーや新聞を見て独り言をつぶやく母親(樹木希林)、のほほんとした老後を送っている父親(細野晴臣)、実家に戻ってきた娘(小泉今日子)。ダイニングテーブルを囲むそんな家族は、気持ちが通じ合ってないように見えるのに、バランスがとれている感じが笑えました。突然とびだす娘のギャグも母親の口走る独り言も、気の抜けた父親の表情も愛らしくておもしろかったです。登場する人物の行動や言動はどことなく冷めていて、飾らない「家族」という表現がされているなと思いました。何よりも、遠まわしに環境問題について語っているところは見逃せません。
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by eizoubunka | 2008-07-31 10:24 | コラム