人気ブログランキング | 話題のタグを見る
シンポジウム・映画上映・講演会「侯孝賢映画から台湾、そしてアジアを知る」参加記(その1)
シンポジウム・映画上映・講演会「侯孝賢映画から台湾、そしてアジアを知る」参加記(その1)_f0063881_1624361.gif
シンポジウム・映画上映・講演会「侯孝賢映画から台湾、そしてアジアを知る」参加記(菅原慶乃)

 2011年6月28日、関西学院大学にて標題シンポジウムが開催された(主催:関西学院大学/台湾行政院文化建設委員会/財団法人自由思想学術基金会)。実はこれに先立つ先週末、名古屋で「台湾映画祭+シンポジウム――侯孝賢の詩学と時間のプリズム」(主催:名古屋大学大学院国際言語文化研究科、台湾・行政院文化建設委員会、財団法人自由思想学術基金会、愛知芸術文化センター)が開催されており、関西学院大のイヴェントは名古屋のシンポジウムの姉妹編というべき催しであった。



 このイヴェントは、標題にある通り、シンポジウム、『恋恋風塵』の35ミリフィルム版上映会、そしてホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督と彼の作品の多くの脚本を執筆してきたチュー・ティエンウェン(朱天文)氏による講演会の3部から構成されたものだった。
筆者は、幸運にもシンポジウムのコメンテーターという役割を与えられての参加であったが、筆者自身の備忘録として、ここにささやかな参加記を残したいと思う。

まず第1部のシンポジウムについて、最終版プログラムは以下の通りである。

盧非易(台湾・政治大学) 
「鳥瞰時光―侯孝賢映画の語りと時間」(中国語・通訳付き)
韓燕麗(関西学院大学) 
「”第三世界美学”と侯孝賢映画」
葉月瑜(香港・浸会大学) ダレル・デイヴィス(香港・嶺南大学) 
「侯孝賢と中国現代文学」(中国語・通訳付き)
西村正男(関西学院大学) 
「台湾映画・侯孝賢と日本」
総合討論:
張小虹(台湾・台湾大学) 菅原慶乃(関西大学) 陳儒修(台湾・政治大学) 廖炳惠(米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校)

 4名の発表者はいずれも映画研究、中国文学研究の第一線で活躍されていらっしゃる面々であり、それぞれに斬新で刺激的な視座から、ホウ・シャオシェン作品を再読するというスタンスで共通していたと思う。コメンテーターの張小虹先生、陳儒修先生、そして廖炳惠先生のやはり文学・映画研究の方面をリードしている方々であり、4つの発表の問題意識をさらに深め、議論を豊かにするヒントが与えられたと思う。全体として、予定されていた時間で語り尽くせないほどに多様で充実した内容であった。
このシンポジウムにおける筆者の役割は、4つの発表に共通する話題を提供する、というものであったが、当日披露できなかった部分を含めたコメント原稿の全文を本稿末尾に附した。各発表のポイントも書いたつもりなので、ご参照いただければ幸いである。
なお、今回のシンポジウムで発表された論考は、近い将来に書籍として出版される計画があるとのことだ。書籍の出版後に再度、例えば書評会のような形で議論をさらに深める機会を企画できれば、と願う次第である。

 第二部の『恋恋風塵』のフィルム上映会には、おそらくは100名近い観客が参加していたものと思われる。デジタル特有の「堅さ」から解き放たれた柔らかいフィルムの雰囲気は、この作品の切ない主題をより叙情的に演出しているように感じた。

 第三部の講演会では、ホウ・シャオシェン監督が「私の映画人生」、チュー・ティエンウェン氏が「私と侯孝賢映画」とのタイトルで行われたが、ホウ監督とチュー氏の絶妙な掛け合いが披露された。
ホウ監督は、その独特のゆったりとした穏やかな調子で、監督自身にとって映画を撮るということにはどのような意義があるのか、について語ってくださった。ホウ監督にとって映画は、生活の一つ一つの場面において(その集積はつまり人生ということになると思うが)人といかにコミュニケートしていくのか、という問題と密接にリンクしており、その方法はあくまで顔と顔をつきあわせた直接的な、そして現場でなされるべきものである、という。ホウ監督自身パソコンをつかったコミュニケーション・ツールはほとんど使わないとのことだが、それもこうした信念の実践であろう。
「映画を撮るのは早いが話すのは遅い」と自らを形容するホウ監督の発言に、絶妙のタイミングで絡み合うのがチュー氏であった。ホウ監督が感性、感覚で思考するとすれば、それを言語化するのがチュー氏であるようだ。個人的に交流があるという中国の美術家陳丹青の創作活動や、ホウ監督作品の自伝的スタイル確立に決定的な影響を与えた沈従文の自伝を例として挙げながら、生活の現場に臨場しつづけ、そこで「見ること(「我看見」)」、それを「信じること(「我相信」)」、そしてそれを「記録すること(「我紀録」)」が、ホウ監督の映画制作の重要な姿勢であるという点が、極めて明解に講じられた。チュー氏によれば、『風櫃の少年』、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』は、ホウ監督のこの創作姿勢が確立するにあたり、非常に大切な契機だったという。ホウ監督自身もこ2作品に『憂鬱な楽園』を加えた3つの作品が、自ら認める重要な作品だとのことであった。
 最後に、今回のイヴェントの主催に名を連ねている自由思想学術基金会の会長で、台湾政治大学の薛化元教授は6月から8月中旬までの約2ヶ月間、招へい教授として関西大学で研究活動に専念されている。薛先生によれば、今回のイヴェントは同基金会が日台の文化交流を促進する目的で始めた活動の一環であり、今回が第三弾ということであった。次回は文学と歴史研究にかんする内容で準備を進める予定だというが、今後も同様のイヴェントが開催されることを強く願っている。
by eizoubunka | 2011-06-30 20:39 | コラム
<< シンポジウム・映画上映・講演会... シンポジウム・映画上映会・講演... >>