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座談会「パリ映画生活」(その3)
3.パリからヨーロッパへ

窪:ところで、バルセロナといえば国外旅行ですよね。日本で海外旅行というと贅沢で大がかりなイメージがありますが、安値でヨーロッパをまわることができるのもパリ滞在の利点かもしれません。

堀:その通りですね。パリはヨーロッパの鉄道網・航空網の要所の一つなので、フランス国内だけでなくヨーロッパ内のどこに行くにもアクセスが良好です。日本は島国なので、鉄道で海外に行くことは今のところありえませんが、パリからだとドイツ(の西側)、スイス、ベネルクス三国、そしてロンドンも、鉄道で気軽に行けるのが魅力でもあると思います。



久保:確かに、フランス国内の鉄道網は日本ほどではないにしても充実しています。しかも、日本に比べて鉄道料金が全般的に安いのも嬉しいです。日本とは違って、フランスの鉄道は予約する時期によって値段がかなり違ってくるので、あまり予定を立てるのが好きではない僕のような人間にとってはなかなか難儀ですが…。また、フランスの鉄道では、カルト12−25という25歳までの若者が買える割引カードがあります。このカード自体を買うのに約50ユーロかかりますが、一度買うと1年間はフランス国内の列車移動が基本的に50%引きになります。私はこのカードを利用し、フランス第二の都市のリヨン(リュミエール博物館があります)とアヌシーというスイスとの国境近くにあり、例年6月にはアニメーション映画祭が行なわれている街に行きました。

堀:そういえば、このサイトはヨーロッパの鉄道網がかなり網羅されていて面白いですよ。バルセロナは飛行機で行くんですよね。

久保:はい。2ヶ月前にLCC(ローコストキャリア)の航空券を買って、往復48ユーロでした。他にもLCCはいっぱいあるので(このサイトが分かりやすく説明しています)、探せばもっと安いチケットもあると思います。計画を立てながら、値段の面でも時間の面でも、ヨーロッパ内、EU圏は近いのだなと感じました。

窪:交通の利便が良いと、ヨーロッパ各地の展覧会に足を運ぶことも容易ですね。フランス国内外を問わず、印象に残った展覧会などはありますか?

堀:今回の在外研究の目的の一つが、ニューメディア研究の一環として、いわゆる映像系のアート作品をなるべく多く見て回ることでもありましたので、わたしも時折、ヨーロッパ各地に出張しました。そのうち、ドイツのカールスルーエというところにあるZKMでの展覧会《fast forward 2》については、自分のブログに書いたレビューがありますが、ケルンのルートヴィヒ美術館の映像コレクション展(《Moving Images》)や、ロンドンのテイト・モダンの監視映像をめぐる《Exposed: Voyeurism, Surveillance and the Camera》という展覧会、パリではオルセー美術館で催された《罪と罰》展もなかなか面白いものでした。それ以外にとりわけ印象に残っているのは、フランス北部のリール近郊にあるル・フレノワと、ブリュッセルにあるWielsという施設でのフランシス・アリス展です。

窪:具体的な展示内容をいくつか伺えますか。

堀:ル・フレノワでは、昨年の4月までやっていたティエリー・キュンツェルとビル・ヴィオラという2人のヴィデオ・アーティストを対比させた展覧会(レイモン・ベルールのキュレーション)と、ベルギーの現代美術を展望する《ABC: Art Belge Contemporain》という展覧会(ドミニク・パイーニのキュレーション)を見て、どちらもなかなか充実していました。この2月からは実験映画界の大御所マイケル・スノウの展覧会が始まります。ル・フレノワはリールから地下鉄で行くか、リールから数駅先の国鉄駅ルーベから歩くこともできます。いずれにせよ、容易に日帰りで行ける距離です。
もう一つのWielsは、さかのぼればビールの醸造所だった場所、ブリュッセル南駅から少し南に行った、まったく観光地ではない場所に、2007年にオープンした現代美術センターです。フランシス・アリスの映像作品は、彼のホームページでも何作品も見られますし、日本の展覧会でも見たことのある人もいると思います。水性のペンキを垂らしながら街を歩くとか、メキシコの路上で眠っているイヌを映すとか、都市の漂流が一つの軸になっていて面白いと思います。Wielsでは2月半ばからダヴィッド・クラエバウトの回顧展が開かれます。わたしはこれまで実際に目にする機会のあった作品はわずか数点にすぎませんが、そのクオリティには強い印象を受けており、回顧展が楽しみです。

久保:バルセロナにも行かれていましたよね?

堀:バルセロナはガウディの建築(サグラダ・ファミリア、グエル公園、カサ・ミラなど)をはじめとして、見所がたくさんありますが、現代美術に関しては MACBA(バルセロナ現代美術館)があり、そこで《Are You Ready for TV?》というテレビについての展覧会を見ましたが、物量作戦に頼った展覧会でちょっと残念でした。こちらはもう終わってしまいましたが、シチュアシオニストのギー・ドゥボールとも近しい関係だったジル・ヴォルマンの回顧展の方が面白かったくらいです。

窪:次の話題に移るまえに、これから足を運ぼうとしている展覧会を教えて下さい。

堀:他にヨーロッパで注目の展覧会と言えば、マドリッドのソフィア王妃芸術センターで開催中の《アトラス》展でしょうか。ジョルジュ・ディディ=ユベルマンという著名なフランスの研究者によるキュレーションが話題を呼んでいます。パリでは、2月5日から始まった、パレ・ド・トーキョーでのアモス・ギタイによる《Traces》というインスタレーションと、3月からジュ・ド・ポームで開かれるアーノウト・ミックの展覧会に期待しています。(続きは、「4.パリにおける映画の研究と教育」へどうぞ。)


by eizoubunka | 2011-02-09 06:03
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